2015年3月12日木曜日

『新しい靴を買わなくちゃ』感想

「そう、大人って意外と純粋なんだよな。」
ふとYouTubede予告編を観て、何だか無性に観てみたくなった映画、
『新しい靴を買わなくちゃ』を観ながら感じたのは、そんなことでした。

ネットでは評価が分かれていたので若干心配だったので、
ノベライズ版を読んでみてからの鑑賞。

結論からいうと、私はすごく好き。

多分、故郷を離れて一人暮らしとか、留学とか、
大切な人との辛い別れとか、仕事とか、そういうことを
経験した人なら何となく空気感が分かるんじゃないかと思う。

日本版『ビフォアサンセット』といった感じで、
何か特別な盛り上がりも事件もスリルもなく、
2組の男女のひたすら普通の、でもとてもプライベートな会話が続く映画。

最初はクサいハプニングやセリフに居心地が悪いんだけど、
いつの間にか二人がいる場の空気感に引き込まれていく。

海外で出会った日本人同士特有の連帯感だったり、
年齢や性別や付き合いの浅さとか職業とかの垣根をポンと
容易く越えて人と関係が結ばれるところだったり、
長く住んでいる人が短期で帰る人を見送ったあとの感じだったり、
そういう空気感が包み込まれているのがお見事。
では、この映画のよかったポイント3つ。

1. 光の入れ方が芸術的
パリのホテルの窓から入る光、のでヨーロッパ特有の乾いた空気に射し込む柔らかい夕陽、
キッチンでコーヒーや白色の食器を照らす朝日。

画面の邪魔をしないように計算されたアングルからの光ではなく、
「あ、眩しい」と目を細めるような、そんな自然な光が計算されて
パックされているのが素晴らしい!

2. 不器用な人のぎこちなさがリアル
話し方とか、言葉遣いとか、普通にスマートな人からすると
「なにこのとってつけたような不自然な会話w」と思うかも知れませんが、
私のような社交ベタからすると、それはもうリアル(笑)。

「つまんないこと言ってないかな」とか、「あ、また変な空気にしてしまった」とか。
逆にパリで出会ったばかりのイケメンと美女がスムーズに話してる方がリアリティないかと。

3. 二組の男女のどちらにも、身に覚えがある
向井理×中山美穂と、綾野剛×桐谷美玲の二組の数日間が交互に描かれるこの映画。
「どちかだけでいい」というレビューも見ましたが、私はこれでよかったと思う。

向井×中山カップルが見せる、大人になった故の遠慮や距離感の
探り合いがあるおずおずとした愛
と、
綾野×桐谷カップルが見せる若さゆえの猪突猛進な愛し方で相手を
追いつめてしまう痛い恋
のバランスがどちらもよい。

大人になった女の重さや気を遣ってあげなきゃいけない面倒くささ、
恋愛の「今」を二人の長期的恋愛の中に相対化できなくて
「今、寂しいの!」というある種の身勝手さ。

二人の女性が見せるそうした女の「淀み」みたいなものは、
多かれ少なかれ誰でも身に覚えがあるのではないでしょうか。

確かにセリフが口語っぽくなく、ところどころの「言わされてる感」は
否めないものの、それって意外とセリフ自体のせいではなくて、
「普段一人で生きてる人間同士が異国で初対面の人とちょっと普段より
頑張って話してる感」なのかも。

もし向井×中山カップルが長く続けば、
二人とも静かに微笑みあいながら、ただ美味しいコーヒーを
飲むような二人になるんじゃないかな。

そんな先を思わせる、「ぱっと見より実はずっと良質な」映画でした。
(写真は私の撮影した写真で、映画とは関係ありません)

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